産業医 コラム

メンタルヘルス ~ストレスが引き起こす様々な疾患~

2024年2月6日

現代人はストレスフル

皆さんは、どんな時にストレスを感じますか?現代はストレスフルな時代だと言われています。厚生労働省が毎年行っている「労働安全衛生調査(実態調査)」によれば、「仕事や職業生活でストレスを感じている」労働者の割合は、52.3%(2013年)、55.7%(2015年)、59.5%(2016年)、58.3%(2017年)、58.0%(2018年)、54.2%(2020年)、53.3%(2021年)と推移しており、働く人の約6割はストレスを感じながら仕事をしていると言えます。この割合を年代別に見てみると(2021年の調査結果)、47.6%(20歳代)、59.5%(30歳代)、53.6%(40歳代)、57.4%(50歳代)、37.4%(60歳以上)となっており、30歳代~50歳代のいわゆる働き盛り世代のストレスが高く、この傾向は男女ともに共通しています。このような強いストレスに常にさらされている現在、ストレスによる健康への影響に注意しなければならなくなっています。

 

過度のストレスによっておこるメンタル疾患

働く人々を取り巻くストレスには、たくさんの要因があります。コロナの影響により、テレワークなどストレス要因が増えており、複雑化しています。過度のストレスにさらされてくると、人間はストレス反応という危機的な反応を示すようになり、「身体面」・「精神面」・「行動面」に様々な症状が現れます。今回はこのストレスによって引き起こされる疾患(や状態)について、特にメンタルヘルスの観点から見てみたいと思います。

 

うつ病、うつ状態

気分が憂うつで何をするのもおっくう、食事がおいしくない・食べたくない、睡眠が十分に取れない、不安感や焦燥感が強い、生きていることが申し訳なく感じる、などの状態を「うつ状態」といいます。ストレスの多い現代社会では、「うつ」は「こころの風邪」ということができるほど、誰もがおちいりやすい状態と言えます。精神的ストレスばかりでなく、身体的疲労からも「うつ」になることがありますので、自分が「うつ」になっていることに早めに気付き、対処することが必要です。「怠けている」と勘違いし、余計に焦って自分を追いつめてしまわないように、十分な注意が必要です。

 

適応障害

日常生活の中で起こった出来事や環境に対してうまく対処できず、心身に様々な症状が現れて社会生活に支障をきたす状態ですが、特徴はストレスの原因が明確であることです。症状はゆううつな気分、不安感、頭痛、不眠など、人によって様々ですが、仕事や学業、対人関係や社会生活を続けることが難しくなります。治療にはまず原因となっているストレスを軽減し、心理的に回復させることが必要です。また、場合によっては薬物療法が必要なこともあります。

 

不眠症

寝つきが悪い・何度も目がさめる・眠りが浅いといった症状が慢性化している状態で、眠りたいという意思があるにもかかわらず、睡眠時間が短く、眠りが浅くなり身体や精神に不調をきたす神経症で、睡眠障害の一つです。症状としては下記の4つに分けられます。

入眠障害:寝付きが悪い
中途覚醒:眠りが浅く途中で何度も起きてしまう
早朝覚醒:早朝に目が覚めてしまいそれ以降眠れなくなる
熟眠障害:ある程度の時間寝ているのにも関わらずぐっすり寝たという感じが得られない

不眠の原因はかゆみ・痛み・発熱など身体的な原因によるもの、不規則な生活によるもの、ストレスや精神疾患による覚醒亢進、薬の副作用などさまざまで原因に応じた対処が必要です。不眠が続くと不眠への恐怖が生じ、無意味な緊張や睡眠する際の環境への過剰なこだわりが、さらなる不眠の原因を生む悪循環に陥りやすいので、眠くなるまで寝ないなど病気と冷静に付き合う事も必要です。

 

不安症/不安障害

正常な反応であるはずの不安が、日常生活にも支障をきたすほど強く長く続くなど頻繁に起こるようになり、それと共に動悸や呼吸困難、めまい、不眠、イライラなどの不安発作(パニック発作)が起こることをいいます。不安症には、社交不安症(社交不安障害)、全般不安症(全般性不安障害)、パニック症(パニック障害)など、いろいろな症状が含まれます。また障害が起こる周期や時間、強さも様々です。原因として、ストレスに対する反応が不適切な場合や、遺伝・体の異常や薬の使用などが考えられています。症状は個人差が大きく、また精神的な障害との区別も必要なので、治療は個々の患者の症状を基にして実施されます。治療法も、薬物療法や認知行動療法などそれぞれ異なるため、専門医の診断が必要です。

 

心身症

ストレスは、自律神経系、内分泌系(ホルモン)、免疫系などを介して、身体の反応として現れます。もし、ストレスが慢性的に強く作用しつづけると、これらの反応が持続することとなり、身体の各部に器質的あるいは機能的な障害を引き起こします。このような状態を心身症と呼んでいます。心身症の治療では、身体の器質的あるいは機能的障害を改善するための薬物治療、自律神経系などの機能を高めるためのリラクゼーションや運動、生活習慣の改善、それからストレスそのものを和らげるための環境調整や精神療法などが有効です。

 

最後に・・

このように、ストレスは精神面のみならず、身体面にも非常に大きな影響を及ぼしうるものです。皆さんも日ごろから、ご自身のストレスが大きくなりすぎていないか留意しましょう。心身の不調が続いている場合は、早めに専門医にご相談ください。