産業医 コラム

花粉症・アレルギー ~早めに対策することが大切です~

2024年1月11日

増え続けるアレルギー疾患

私たちの体には、自分の体の成分と違う物、例えば細菌、ウイルス、食物、ダニ、花粉などが体の中に入ってくるとそれを異物として認識して攻撃し排除する仕組みがあります。これを「免疫」と呼んでいます。アレルギー反応も免疫反応のひとつですので、異物に対して反応する際に自分の体を傷つけてしまう場合をアレルギー反応と呼んでいます。ちなみに花粉症はそのアレルギー反応のひとつとなります。代表的なアレルギー疾患は、花粉症の他、気管支喘息、食物アレルギー、アトピー性皮膚炎などで、現在、日本では約二人に一人が、何らかのアレルギー疾患に罹患していると言われており、国の調査でも増加傾向にあると言われています。
花粉症有病率の年次推移は、厚生労働省の資料(鼻アレルギーの全国疫学調査)によると、2019年度の有病率は花粉症全体で42.5%、スギ花粉症で38.8%で10年間で10%以上増加しています。アレルギー疾患の中には、急激な症状の悪化を繰り返したり、重症化により死に至ったりするものがあり、職場や学校等のあらゆる場面で日常生活に多大な影響を及ぼしています。平成27年12月から、アレルギー疾患対策基本法が施行されました。国民病ともいえるアレルギー疾患の対策に、より一層の充実が切実に求められているのです。
今回は、代表的なアレルギー疾患である花粉症について説明します。

 

花粉症とは

花粉を原因として引き起こされるアレルギー反応による症状を花粉症とよびます。

■花粉症のメカニズム(下図参照)
 ①花粉などのアレルゲン(抗体)が鼻粘膜に付着
 ②リンパ球がIgE抗体をつくり、IgE抗体が肥満細胞に張りつく
 ③アレルギー症状を起こす原因となる化学物質(ヒスタミンなど)が分泌される
 ④花粉をできる限り体外に放出しようとし、アレルギー症状が起こる

主に以下の症状を生じます。
【アレルギー性鼻炎】くしゃみ、水様性鼻みず、鼻づまり
【アレルギー性結膜炎】かゆみ、充血、涙など
そのほかに、のどの症状(かゆみ、刺激感)、咳、胃腸症状(痛み、下痢)、顔などの露出部皮膚の発赤、かゆみ、さらに頭重感、頭痛などの全身症状を訴える方も多く、日常生活に支障をきたします。

                                         一般社団法人日本アレルギー学会 「アレルギーの病気とは(花粉症)」

 

花粉の種類と地域差

花粉症を引き起こす植物は、日本では約50種類が報告されています。春に飛ぶ、スギやヒノキの花粉がよく知られていますが、夏から秋にかけて飛ぶ、イネ科植物やキク科植物(ヨモギやブタクサ)などの花粉でも症状が起こります。また地域によっても飛ぶ花粉の種類や時期が違います。北海道ではシラカバ花粉によるものが多く、沖縄にはスギが全く生息しません。また、毎年の花粉の飛散予測情報が、気象協会他から出ています。今後の情報や、花粉飛散時期には毎朝の天気予報もご参考ください。

 

花粉症による仕事への影響

働く場でも、花粉症対策は重要です。花粉症の症状で、会社を休むほど不調になることは多くはないでしょうが、1日に何度も鼻をかまなくてはいけない、目がかゆくてPC画面を見るのもつらい、鼻がつまって頭がぼーっとして集中できないという方は多くいらっしゃるでしょう。薬の副作用と合わさって、日中も眠い、頭がうまく働かないなど、普段通りに仕事ができなくなり、業務効率が落ちてしまいます。かといって、仕事を切り上げてまで受診するほどの緊急性を感じるわけでもないため、毎年症状はあるものの治療をせずに過ごされる方も多いようです。東京都の実態調査では、症状がある人の中で医療機関を受診していない方が57.3%と、過半数となっているようです。プレゼンティーズムという、仕事はしているものの業務効率が落ちた状態をもたらす疾患のうち、花粉症などのアレルギー疾患が最も多く、そのための労働損失も最も多いという調査結果もあります。また、くしゃみのために車で事故を起こす事例もあります。以上のことから、職場でも花粉症について正しい知識を持ち、必要な人が必要な治療を受けることが重要です。

 

花粉症の対策

花粉症対策の原則は原因物質の排除です。そのためには、花粉飛散情報を利用して外出や窓の開閉の工夫をして花粉曝露を避ける、マスクや眼鏡、花粉の付着しにくい帽子やコートの着用等を利用して侵入する花粉の量を減少させる、掃除を心掛ける、など職場・学校・自宅の中に花粉を持ち込まない対策が重要です。新型コロナウイルス感染症流行対策で日常的に着用しているマスクは花粉症対策にもなります。花粉の粒子の大きさは、3-40㎛(マイクロメートル)であるのに対し、新型コロナウイルス粒子の大きさは0.1㎛(飛沫の大きさは約2㎛)です。不織布のマスクを顔にフィットさせてつけるようにしましょう。

 

花粉症の治療

もっとも広く行なわれているのは「薬物療法」です。いろいろな特徴をもった薬剤がありますので、症状に合わせて使うことで高い効果がみられます。内服薬に加え、全身的な副作用の少ない点鼻薬の選択肢も増えています。花粉症の症状の出現前・ごく初期に治療を開始すると粘膜の炎症の進行を止め、早く正常化させることができるため、花粉症の重症化を防ぐことができます。シーズン中の継続的な薬物治療が必要です。 病院を受診すると保険診療で処方薬をもらえますが、市販薬の選択肢も増えてきています。受診時間が取れない方は、市販薬の活用も選択肢ですが、症状の強い方は、ぜひ一度、アレルギー内科や耳鼻科を受診してください。「アレルゲン免疫療法(減感作療法)」は、注射や薬を使って抗原を少量から徐々に増量しながら体内へ摂取、抗原特異的に過敏性を減少させる治療法で、根治的な治療法です。

 

花粉症がひどくならないために

一般的に花粉症がひどくならないためには、普段の生活のなかで、以下のようなことに気をつけると良いでしょう。

・睡眠をしっかりとる
・規則正しい生活をする
・バランスのよい食事をとる
・手洗いやうがいの励行
・お酒の飲みすぎに気をつける
・タバコを控える(粘膜を正常に保つために重要です)
・アレルギー血液検査などを受け、自身のアレルギーを知っておく(耳鼻科や内科で受診可能です)

 

最後に・・

今まで症状がなかった方も突然発症することがあるので他人事と思わずしっかり予防していきましょう。今の季節から準備をすすめ、症状に合わせ必要な治療を受けるようにして下さい。