産業医 コラム

女性特有の健康課題 ~本人や周囲の理解も大切です~

2024年3月8日

働く女性の健康課題

経済産業省が「働く女性の健康推進に関する実態調査(※働く男女5,422名)」を実施したところ、女性従業員の約5割が女性特有の健康課題により職場で困った経験があると回答しました。そのうちの多くが月経痛や月経前症候群によるものでした。働きやすい環境作りのためにも、「女性の健康課題」について理解を深めましょう。

 

月経に関連した症状による労働損失

月経に関連した症状による労働損失は年間4,911億円と試算されています。労働損失には、アブセンティーイズム(健康上の理由により会社を休んでいる状況)やプレゼンティーイズム(職場に出勤しているものの、何らかの健康問題によって業務の能率が落ちている状況)の両方が含まれ、特にプレゼンティーイズムによる影響が大きいと言われています。

 

本人や周囲の理解

「働く女性の健康推進に関する実態調査」では、女性従業員が会社に求める女性特有の健康課題や妊娠・出産などのサポート上位に「会社による業務分担や適切な人員配置などのサポート」「治療などのための休暇制度や柔軟な勤務形態を支えるサポート」「上司や部署内でのコミュニケーション」があがりました。女性の健康課題の解決のためには、本人だけでなく会社や周囲の理解も重要なポイントとなります。

 

女性ホルモンの作用

女性ホルモンとはおもに卵巣から分泌される「エストロゲン」「プロゲステロン」のことを指します。排卵や月経をコントロールするだけでなく、女性の生涯にわたって心身に大きく影響しています。

【エストロゲン】
・子宮内膜を増殖させて妊娠の準備をする
・乳房を発達させて女性らしい体をつくる
・自律神経を安定させる
・血管・骨・脳などを健康に保つ
・コレステロールのバランスを整える
・肌のつややハリを保つ

【プロゲステロン】
・妊娠の成立に向けて子宮の働きを調整する
・乳腺の発達を促す
・食欲を増進させる
・体内に水分をキープする
・眠くなる
・イライラしやすくなるなど気分を不安定にする

 

月経困難症

月経期間中に、月経に関連して起こる病的症状の総称を月経困難症といいます。

《月経困難症の主な症状》
下腹部痛/腹痛/お腹の張り/吐き気/頭痛 など身体症状が中心

 

原因と治療

月経困難症は器質的疾患(※)の有無により、以下のように分類されます。
(※)身体の組織である筋肉群や骨格などが既に変形あるいは破壊されてしまっている状態。または著しい内臓の機能低下

 

PMS(月経前症候群)

PMS(Premenstrual Syndrome:月経前症候群)とは、月経前、3日~10日の間続く、精神的あるいは身体的症状で、月経開始とともに軽快ないし消失するものをいいます。20歳代は身体症状が中心、30歳代になると精神神経症状が増加します。30歳代でPMS症状に悩む人の頻度が増えるとも言われています。

《PMSの主な症状》
■精神神経症状
 情緒不安定/イライラ/抑うつ/不安/眠気/集中力の低下/睡眠障害 等
■自律神経症状
 のぼせ/食欲不振・過食/めまい/倦怠感 等
■身体症状
 腹痛/頭痛/腰痛/むくみ/お腹の張り/乳房の張り 等

 

PMS(月経前症候群)の治療

まず、出現してきた症状を記録し、月経周期との関連を確認しながら、自らの病状について理解することが大切です。症状とうまく付き合うために、自分のリズムを知り、自分にあったセルフケアを行うことができるよう心がけましょう。薬による治療としては、対症療法(鎮痛剤、利尿剤、抗不安剤、睡眠導入剤)、低用量ピル、漢方薬など症状や体質などに合わせた方法があります。

 

更年期障害

閉経前後5年の期間を「更年期」といいます。この時期にホルモンのバランスが崩れ心身にあらわれる不調のうち日常生活に支障をきたすものを更年期障害と呼びます。自律神経の乱れによって心身の症状が出ます。日本人の更年期女性にみられる不定愁訴(※)には疲れやすさ、肩こり、腰痛など多く報告されています。症状が日常生活に支障が出る場合は早めに受診するようにしましょう。
※不定愁訴とは・・強く主観的な多岐にわたる自覚症状の訴えがあるものの、検査をしても客観的所見に乏しく、原因となる病気が見つからない状態を指す。

《更年期障害の主な症状》
肩こり/腰痛/疲れやすさ/頭痛/めまい/ほてり/のぼせ/発汗
気分の落ち込み/怒りやすく、イライラする/情緒不安定 等

 

更年期障害の自分でできる対処法と治療

【自分でできる対処法】
・バランスの良い食生活(大豆・大豆加工食品を摂取)
・有酸素運動(ウォーキング・水中歩行・ヨガ・サイクリング 等)
・女性ホルモンを補うサプリメント(大豆イソフラボン、エクオール 等)

【治療】
・ホルモン補充療法(HRT)
・漢方薬
・対症療法(抗不安薬・抗うつ薬・鎮痛薬 等)
・心理療法・カウンセリング

 

最後に・・

女性特有の健康課題について理解を深めることは、本人・周囲にとっても大切なことです。症状がひどくなってきた、日常生活に支障がでてきたなどがあれば、我慢をせずに早めに婦人科を受診しましょう。