産業医 コラム

感染症の動向と対策 ~冬場だけでなく1年中流行中~

2023年11月13日

コロナ流行下における感染症の動向

新型コロナウイルス感染症のパンデミックが宣言された2020年3月以降、新型コロナウイルス以外の感染症の流行に変化が出ています。

①輸入感染症の減少
入国制限や渡航制限で、人の往来が大幅に減少
デング熱やマラリアなど顕著に減少(対応できる施設も減少したことは課題)

②飛沫感染・接触感染で広がる感染症の減少
コロナ対策としてのマスク着用、三密回避、発熱者自宅待機などにより、
コロナ以外のインフルエンザ、マイコプラズマ、ノロウイルス、RSウイルスなどの感染症が一時的に減少
ところが、RSウイルス、インフルエンザなどは2023年現在急増している

③ワクチンで予防可能な感染症にも変化
コロナ禍で感染症予防対策を行ったことにより風疹、麻疹、流行性耳下腺炎、水痘も減少
ただしワクチン接種率が低下したことで、今後確実な接種をしないと世界的流行も懸念される

④食中毒発生状況の変化
細菌性の食中毒は、外食機会が減ったことで、全体数は減少
飲食店での発生件数は少なかったものの、家庭での食中毒は過去最多
今後は、従来通りに増えてくるものと考えられる

⑤影響をあまり受けなかった感染症
性感染症(クラミジア、淋病、性器ヘルペス、梅毒、AIDS)は、変化なし
野外活動での感染症については、ダニ感染症は変化なし

 

インフルエンザ

普通の風邪とインフルエンザの違い

■普通の風邪
様々なウイルスによって起こりますが、発熱、のどの痛み、鼻汁、くしゃみ、咳などの症状が中心で、全身症状はほとんどありません。

■インフルエンザ
インフルエンザウイルスによっておこり、38℃以上の発熱、頭痛、関節痛などの全身症状が急速に現れるのが特徴です。また小さい子供の場合は急性脳症、高齢者では肺炎などを伴うなど重症になることもあります。

 

インフルエンザが冬場に流行する要因

・冬は気温が低下し、体温も低くなることで免疫力が低下
・乾燥しウイルスが空中に、飛散し活動しやすくなる
・乾燥した空気を吸い、鼻や喉の粘膜が乾燥していると、防御機能が落ち、ウイルスが侵入しやすくなる

 

インフルエンザ流行の時期に変化

上記の通りインフルエンザは従来冬場の12月~4月に流行、1月末~3月上旬がピークとなります。しかし2023年9月11日~17日(37週)の全国の患者報告数は昨年同時期の約312倍(111件→34,665件)と夏から流行しており、都内では9月時点でインフルエンザによる学級閉鎖も多く発生しています。早めの予防と対策を行うようにしましょう。

 

流行前のワクチン接種

ワクチンは感染後に発症する可能性を低減させる効果と、発症した場合の重症化防止に有効です。ただし、感染を完全に抑える働きはありません。ウイルスが増えると数日の潜伏期間を経て、発熱やのどの痛みなどの症状を発症しますが、ウイルスの発症を抑える効果が一定程度認められています。ワクチンの効果は接種した2週間後から5ヶ月程度までと考えられていることや、シーズンごとに流行が予測されるウイルスに合わせて製造されているため、予防に充分な免疫を保つには毎年ワクチンの接種を受けたほうがよいと考えられています。12月中旬頃までには接種を終えておくと良いでしょう。

 

インフルエンザの予防

・咳やくしゃみが出ているときはマスクをし、周囲の人に配慮する
・石鹸による手洗いやアルコール消毒で手指衛生を行う
・加湿器などを使い適切な湿度(50%~60%)を保つようにする
・日ごろから免疫力を高めるために、充分な休養とバランスのとれた栄養を摂取する

 

罹患した場合の出社目安

発症日を0日として5日間かつ解熱後2日以上

 

ノロウイルス

ノロウイルスの症状は?

・潜伏期間は24~48時間
・症状は下痢・腹痛・嘔吐など消化器症状
・38度台の発熱があることもあるが長くは続かない
・症状全体も4日程度で改善

ノロウイルスによる胃腸炎は1年を通して発生していますが、特に冬季に流行します。感染しても症状がない場合や軽い風邪のような症状のこともありますが、乳幼児や高齢者では重症化したり、吐物を誤って気道に詰まらせ死に至ることもあります。

 

感染経路は?

ノロウイルスは感染経路が非常に多く感染しやすい感染症です。代表的な感染経路は以下の通りです。

<人からの感染>
・患者の便やおう吐物からの二次感染
・家庭や施設内などでの飛沫による感染

<食品からの感染>
・感染した人が調理などをして汚染された食品からの感染
・ウイルスの蓄積した、加熱不十分な二枚貝などからの感染

 

ノロウイルスの予防

ノロウイルスに有効なワクチンはありません。
・患者との接触を最小限にする
・吐物や糞便の処理には使い捨ての手袋、マスクを使用
・ドアノブなど接触感染の恐れのある場所は、次亜塩素酸ナトリウムを使用し消毒
・食品をしっかり加熱し、調理台や調理器具も消毒する
・手洗いを徹底する

 

罹患した場合の出社目安

症状が消滅し、医師が感染のおそれがないと認めるまで

 

新型コロナウイルス

新型コロナウイルスの症状は?

新型コロナウイルスは変異を短期周期で繰り返しており、現在も流行は続いています。オミクロン由来の新株は感染拡大の速度が非常に高いです。オミクロン株の場合は潜伏期間2-4日で、主な症状として、発熱、咳、頭痛、喉の痛み、苦しさ(呼吸困難)、強いだるさ(倦怠感)等があります。高齢者、糖尿病、心疾患、呼吸器疾患(COPD等)等の基礎疾患がある方や、免疫抑制剤や抗がん剤等を用いている方は重症化しやすいとされ、特段の注意が必要です。

 

感染経路は?

感染経路は感染者の飛沫(くしゃみ、咳、つばなど)と一緒にウイルスが放出され、他の方がそのウイルスを口や鼻などから吸い込んで感染する飛沫感染があげられます。また、飛沫よりも細かい0.005㎜未満の粒子がしばらくの間空気中を漂い、その粒子を吸い込んで感染する、エアロゾル感染があります。他にも感染者がくしゃみや咳で手を押さえた後、その手で触れたものに、他の方が触れるとウイルスが手に付着し、その手で口や鼻を触ると粘膜から感染する接触感染の場合もあるので、むやみに顔を触らないようにしましょう。

 

2023年コロナウイルス感染症の現況

2023年5月8日に感染上の扱いが5類相当へ変更しました。それに伴い、行政主導で行われていた感染予防対策がほぼ撤廃し、人々の行動もマスクを含めて自由化された雰囲気で活動が活発になっています。ですがこのような状況でも新型コロナウイルス感染症は流行し続けてます。(2023年9月時点で第9波)新株の出現で今後も流行の再燃が懸念されています。

 

新型コロナウイルスの予防

・手洗いの際は石鹸を利用し、手の表面についたウイルスを洗い流す
・マスクの着用は個人の判断となるが、重症化リスクの高い方への感染を防ぐため病院や混雑した公共機関を利用する
 際にはマスクの着用を推奨
・顔や目をむやみに手で触らない

 

新型コロナワクチンと他のワクチンの接種間隔は?

新型コロナウイルスとインフルエンザワクチンは、互いに日数の間隔について考慮不要で接種可能です。ただし医療医療機関によって異なる場合があるので、同時接種の可否や接種可能時期について予め医療機関へ確認しましょう。新型コロナウイルスとインフルエンザ以外のワクチンは、互いに片方のワクチンを受けてから2週間後に接種可能です。また都内では、30%以上がエリス株に置き換わっており、2023年9月20日以降接種開始したXBB1.5対応ワクチンは、オミクロンXBB1から派生したエリス株には効果的と考えられています。

 

罹患した場合の出社目安

発症日を0日として5日間かつ、症状軽快後24時間以上経過

 

最後に・・

コロナ感染症が5類に移行し、対策が大幅に規制緩和されたためコロナも含め感染症に対して油断が出てきていませんか。改めて自分の感染対策が、他の人にも影響することを認識し行動するようにしましょう。また、予防接種も上手に利用し、感染症に負けない健康な生活を心がけていきましょう。