産業医 コラム

良い睡眠をとり心の健康を守りましょう ~精神衛生と睡眠~

2023年9月5日

適切な睡眠時間とは

みなさんは毎日睡眠時間をしっかりと確保できていますか?睡眠時間に関する研究は世界中で行われていますが、2004年に発表された北海道大学(玉腰暁子先生)の研究結果によると、睡眠時間が7時間の人の死亡率が一番低いという結果になりました。睡眠時間は長すぎても短すぎても、体に悪い影響を与えることがわかります。

 

日本人の平均睡眠時間

2019年国民健康・栄養調査では、日本人の平均睡眠時間は7時間未満の方の割合が男女ともに70%超という結果でした。他国と比べても特に子供たちや就労者の睡眠時間は世界で最も短いと言われており、日本人の睡眠不足が懸念されます。必要な睡眠時間は個人差が大きく、年齢によっても変化しますが、7時間を目安に自然に眠れ日中眠くて困ることない程度の適切な睡眠時間を確保しましょう。

 

睡眠の役割とは

【疲労や体の回復】
疲労の回復は、ただ体を休めるだけではありません。成長ホルモンは、子供の成長や、傷ついた細胞を修復したり新しい細胞を生み出したり新陳代謝を活発にさせるものですが、このホルモンは1日の中でも睡眠始めの深い睡眠時に多く分泌されており、特にその時間帯の睡眠がより深い程多く分泌されると言われています。

【自律神経や免疫機能】
呼吸や循環など人間の体の生命活動は自律神経によってコントロールされていますが、日中は交感神経が優位で活動しやすくなっており、睡眠中は副交感神経が優位になりエネルギー消費を抑えて体を休め、翌日の活動に備えるようになっています。ストレスや過労などで睡眠時間が短くなったり不規則になると、疲労が十分に回復しなくなるだけでなく、自律神経のバランスも崩れやすくなり、血圧の上昇や便秘などの体の変化も出やすくなっていきます。また、免疫機能も自律神経のコントロールを受けており、睡眠の質や量が低下すると免疫力も低下し、感染症やがんのリスクも高くなっていきます。

【記憶】
記憶に関しても睡眠との関係が言われています。睡眠にはサイクルがあり、夢を見る「レム睡眠」と大脳を休める「ノンレム睡眠」が約90分周期で変動し、朝の覚醒に向けて徐々に始動準備を整えます。このレム睡眠の間に、起きている間に記憶した情報を整理して定着させると言われており、逆に眠り始めの深いノンレム睡眠中には、過去に経験した「いやな記憶」を消去する働きがあると言われています。

 

睡眠が引き起こす悪影響

慢性的に睡眠不足が続いている状態を「睡眠負債」と呼びます。平日に蓄積した睡眠負債を後から解消するために、休日に長く眠る「寝だめ 」の習慣を持つ人が働く世代には少なくありません。しかし、休日に寝だめをすることで、就寝・起床の時刻に平日と休日とでずれが生じます。これは「ソーシャルジェットラグ(社会的時差ボケ)」と呼ばれています。寝だめには平日と休日を行き来する度に体内時計が乱れるという代償が伴います。また日本国内の「眠気による作業効率の低下」は年間3兆664億9,390万円経済損失に値すると言われており、これは欠勤による損失の約50倍になります。作業効率を上げるためにも、睡眠を十分にとりストレスをため込まないようにしましょう。

【睡眠負債やソーシャルジェットラグが引き起こす悪影響】
注意力の低下 / 記憶力・学習力の低下 / 代謝機能の低下
免疫力の低下 / 気分障害のリスク増加 / 生活習慣病のリスク増加

 

睡眠障害とメンタルヘルス不調の悪循環

睡眠に関する問題が続くと、ストレスを感じやすくなりメンタルヘルス不調のリスクも高まります。睡眠障害はうつ病患者の82~100%に見られるという報告もあり、身体だけでなくこころの健康にも大きく影響することがわかります。

【睡眠障害とメンタルヘルス不調の悪循環】

 

睡眠時無呼吸症候群

質の悪い睡眠は生活習慣病の罹患リスクを高め、命にかかわる疾患に繋がる恐れがあります。質の悪い睡眠の原因として「睡眠時無呼吸症候群」が要因のケースがあります。「睡眠時無呼吸症候群」とは、睡眠時に息の通りが悪くなって呼吸が止まる疾患です。呼吸が止まると血液中の酸素濃度が低下するため、目が覚めて再び呼吸し始めますが、眠り出すとまた呼吸が止まります。これを一晩中繰り返すため深い睡眠がとれなくなります。疑わしい症状・気になる症状がある場合はスリープクリニック(睡眠外来)や内科のかかりつけ医に相談をしましょう。

 

睡眠による休養感を高める工夫

【身体活動を増やす】
日中に体を動かし、適度な疲労を感じることで寝付きが促され睡眠の質が高まります。働く世代は中・高強度の運動、リタイア世代は低強度の運動が睡眠不足のリスク を減らします。寝る前2~4 時間の運動はかえって目を覚ますので避けましょう。
<低強度の運動> 散歩 / ストレッチ / 体操 / ヨガ / 草むしり  など
<中強度の運動> 野球 / ハイキング / 軽い大工仕事 / 雪かき など
<高強度の運動> ジョギング / テニス / サイクリング / 水泳 / 登山 など

【生活習慣を整える】
①寝る直前の食事は控える
睡眠直前の2時間以内に食事を摂ると、睡眠の質を低下させる可能性があるので、なるべく決まった時間に食事をするよう心がけましょう。
②夕方以降はカフェインを控える
カフェインには覚醒作用や利尿作用があるため、眠りを浅くしたり途中でトイレに起きたりする原因にもなります。
③スマートフォンの使用を控える
睡眠の1 時間前からスマートフォンやパソコンの使用を控え、室内の照明を半分にするなど明るさに気をつけましょう。
④喫煙をしない
タバコに含まれるニコチンは覚醒作用があり、眠りを妨げます。

【睡眠環境を整える】
①寝具(枕、ベッドマット、布団)
枕の高さ : ベッドマットや敷き布団と首の角度が約5度になるのが理想的
ベッドマット、敷き布団 : 適度に硬い方が良い
掛け布団 : 保温性、吸湿性、放湿性、軽さ、フィット感

②寝室内環境(温度、湿度、光、音)
温度 : 夏場 約25℃~26℃ 冬場 22~23℃
湿度 : 50%~60%
光  : 遮光カーテンや雨戸を利用し、光を遮断
音  : 寝ている間は音楽等聴かず、できるだけ静かに

 

最後に・・

睡眠は身体だけでなく、心の健康にも深くかかわっています。良い睡眠をとるために、どのようなことに気を付ければよいかまずは自分の生活習慣、睡眠環境を見直してみましょう。