産業医 コラム
生活習慣病 ~日々の予防が健康に繋がります~
2024年8月7日
NCD(生活習慣病)とは
生活習慣病とは、食習慣、運動習慣、休養、喫煙、飲酒などの生活習慣がその発症・進行に大きく関与する疾患群の総称です。NCD(Non-communicable diseases)とはWHOが定義した疾患群であり、循環器疾患・がん・慢性呼吸器疾患・糖尿病などの非感染性疾患の総称です。四大危険因子として喫煙・不健康な食生活・運動不足・過度の飲酒が挙げられており、生活習慣病と非常に近い概念といえますが、国際的にはNCDの方がよく用いられます。世界ではNCDにより毎年4,100万人が死亡し、これは世界全体の74%の死亡者数に相当します。低所得国や中所得国での70歳までの死因の多くをNCDが占めており、WHOや国連総会が中心となってNCDの予防や管理に取り組んでいます。また、2019年末から始まりパンデミックを引き起こした新型コロナウイルス感染症の重症化の危険因子のほとんどがNCDであるということがWHOから発表されています。
NCD(生活習慣病)対策は健康寿命を伸ばすかぎ
日本は世界一の長寿国です。日本人の平均寿命84.3歳は全世界の平均寿命73.3歳に比べて約10年長いです。一方、日常生活に制限のある不健康な期間を含めた「平均寿命」と、日常生活に制限のない健康な期間のみを表す「健康寿命」の差は、男性で約9年、女性で約12年と報告されています。人口動態統計によると、NCDは日本人の死因の5割以上を占めていて、健康寿命を伸ばすかぎはNCD対策にあります。
生活習慣が影響する病気(メタボリックシンドローム)
メタボリックシンドローム=内臓脂肪症候群
メタボリックシンドロームが強く疑われる人あるいはその予備群と考えられる人は男女とも30歳以降から徐々に増え始め、男性では40歳以上でおよそ2人に1人、女性も60歳以上で5人に1人という割合に達しており、なお増加傾向にあります。メタボ=単なる肥満ではなく、肥満とくに内臓脂肪型肥満に高血圧・高血糖・脂質代謝異常の危険因子のうち2つ以上を併せ持つ危険な状態です。このトリプルリスクのうちどれか1つが高いと、3つとも高くなってしまいやすく、その結果、動脈硬化を引き起こし、脳卒中や心筋梗塞、狭心症などの動脈硬化性疾患を引き起こしやすくなるのです。
メタボリックシンドロームの診断基準
日本人は欧米人に比べて軽度の肥満でも心血管疾患や糖尿病を発症するリスクが高いことが知られており、2005年に日本人独自のメタボリックシンドロームの基準が作られました。
▼メタボリックシンドロームの診断基準
・内臓脂肪肥満型
【腹囲】男性で85cm以上・女性で90cm以上
※内臓脂肪面積の測定ができる場合には、男女ともに内臓脂肪面積が100平方cm以上に相当
・上記に加え、以下のうち2項目以上当てはまる場合はメタボリックシンドローム
①【血圧】収縮期血圧130mmHG以上または、拡張期血圧85mmHG以上
②【血糖】空腹期血糖値110mg/dl以上
③【脂質】中性脂肪150mg/dl以上または、HDLコレステロール40mg/dl未満
メタボリックシンドロームの予防
メタボリックシンドロームの治療は、メタボリックドミノのコマが倒れるのをできるだけ早期に防ぐことです。すなわち、ドミノの最上流で、一人一人が自分の生活習慣や体型に応じた体重を設定して生活習慣を見直し、食事療法や運動療法により内臓脂肪を減らすことが大切です。
【食事のポイント】
・主菜(お肉や魚など)、副菜(野菜、海藻、きのこなど)、主食(ご飯、パン、麺など)の揃ったバランスの良い食事を心がけましょう。
・朝食を抜くと、糖尿病や心筋梗塞、脳卒中のリスクが上がります。
・よく噛んで、ゆっくり食べると糖尿病や肥満のリスクが下がります。
・調理用の油は、動物性脂肪(バター、ラード)より植物性脂肪(オリーブ油、菜種油)がおすすめです。
【運動のポイント】
運動習慣のなかった人はいきなり強度の強い運動はやめましょう。まずおすすめは有酸素運動です。慣れてきたら、レジスタンス運動を組み合わせましょう。
・有酸素運動・・・ウオーキング、サイクリング、ジョギング、水泳、踏み台昇降など
→1日合計30分を週に2〜5回が理想ですが、2日に1回でも継続的に行うことが大切です。
・レジスタンス運動・・・腹筋、ダンベル、スクワットなどの筋力トレーニング
→筋力向上のみならず、有酸素運動と組み合わせることで、血糖改善が認められます。血圧が高い場合は主治医と相談しましょう。
生活習慣が影響する病気②がん
がんと生活習慣病
がん予防についての研究から、日本人のがんと生活習慣病や環境との間に深い関わりがみられており、生活習慣を改善することで予防につながるがんがあります。日本人のがんにおいて、男性は43.4%、女性は25.3%が生活習慣や感染が原因と考えられています。
日本人のためのがん予防法(5+1)
国立がん研究センターをはじめとする研究グループは、日本人のがんの予防にとって重要な、「禁煙」「節酒」「食生活」「身体活動」「適正体重の維持」の5つの改善可能な生活習慣に「感染」を加えた6つの要因を取りあげ、「日本人のためのがん予防法(5+1)」を定めていますので紹介します。
(1)禁煙する
たばこを吸う人は、肺がんをはじめ、食道がん、膵臓がん、胃がん、大腸がん、肝細胞がん、子宮頸がん、頭頸部がん、膀胱がんなど、多くのがんになるリスクが高まることがわかっています。
(2)節酒する
飲酒は、肝細胞がん、食道がん、大腸がんと強い関連があり、女性では男性ほどはっきりしないものの、乳がんのリスクが高くなることが示されています。お酒を飲む場合は純エタノール量換算で1日あたり23g程度までとし、飲まない人、飲めない人は無理に飲まないようにしましょう。
(3)食生活を見直す
・減塩すると胃がんのリスクが減ります。
→1日当たりの食塩摂取量を男性7.5g未満、女性6.5g未満にすることを推奨。
・野菜と果物を積極的に摂取することで食道がん、胃がん、肺がんのリスクが減ります。
→1日あたり野菜350g、果物と合わせて400gの摂取を推奨。
・熱い飲み物や食べ物を少し冷ましてから口にすることで食道がんのリスクが減ります。
(4)身体を動かす
身体活動量が高い人は、男性では大腸がん、女性では乳がんの発生リスクが低下します。
(5)適正体重を維持する
男女共に、がんを含むすべての原因による死亡リスクは、太りすぎでも痩せすぎでも高くなることがわかりました。男性はBMI値21〜27、女性はBMI値21〜25の範囲になるように体重を管理することがよいようです。
BMI=(体重kg)/(身長m)2
(+1)感染症の検査を受ける
感染は日本人のがんの20%を占めると推計されます。感染したら必ずがんになるわけではありません。それぞれの感染の状況に応じた対応をとることでがんを防ぐことにつながります。
(例)ピロリ菌→胃がん B型・C型肝炎ウイルス→肝臓がん
(出典:国立がん研究センター がん情報サービス「科学的根拠に基づくがん予防」)
飲酒に対する国の動き
2024年2月に厚生労働省より「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」が公表されました。このガイドラインの目的は、アルコール健康障害の発生を防止するため、一人ひとりがアルコールに関連する問題への関心と理解を深め、予防に必要な注意を払って不適切な飲酒を減らすことです。飲酒量(純アルコール量)が少ないほど飲酒によるリスクが少なくなるため、一人ひとりが疾患などの発症リスクにも着目し、健康に配慮することが重要と言われています。最近の日本人の研究結果から、高血圧や男性の食道がん、女性の出血性脳卒中などの場合は、たとえ少量であっても飲酒自体が発症リスクを上げてしまうこと、大腸がんの場合は、1 日当たり20g程度(週150g)以上の量の飲酒を続けると発症の可能性が上がる等の報告があり、これまで言われてきた“適量”ではなく、飲酒量を少しでも減らすことを勧める内容となっています。
健康に配慮した飲酒方法
「健康に配慮した飲酒の仕方」も次の5項目が上がっていますので、ご自分のお酒との付き合い方を振り返ってみてはいかがでしょうか。
①自分の状態に応じた飲酒を心がけましょう⇒飲酒習慣を振り返る
②あらかじめ量を決めて飲酒しましょう⇒自ら量を決めることで過度な飲酒を避けられる
③飲酒前又は飲酒中に食事をとりましょう⇒血中のアルコール濃度を上がりにくくする
④飲酒の合間に水や炭酸水を飲みましょう⇒アルコールをゆっくり分解、吸収するため
⑤毎週休肝日を設けましょう⇒毎日飲み続けるといった継続した飲酒は避ける
最後に・・
日々の健康習慣が大きな病気の予防に繋がります。健康寿命を伸ばすためにも、無理なく続けられる適切な方法を探してみましょう。