産業医 コラム

口と歯の健康 ~むし歯や歯周病になる前に予防が重要~

2024年6月6日

歯科疾患は有病率が高い

歯科疾患の通院率は他の疾患と比較して高く、男性が第5位、女性が4位です。(令和4年国民生活基礎調査)また、歯や口の自覚症状を持っている国民は約4割います。(2016年歯科疾患実態調査)歯の健康は全身の健康にも大きく影響します。年を重ねても自分の歯で食事ができるように、今からむし歯や歯周病予防を心掛けましょう。

 

歯科にかかる医療費と法改正の動き

健康保険組合によると疫病分類医療費のうち歯科の医療費は最も多く、16.5%を占めています。また、健康保険組合における「う蝕、歯肉炎・歯周疾患、歯及び歯の支持組織障害の歯科3疾患の受診者数」は、年を取るにつれ増えていきますが、50~54歳をピークに45~59歳の中高年の歯肉炎・歯周疾患の歯科疾患医療費が高い傾向を示します。重症になる前に予防・治療することが重要です。
なお、歯科に関連する法改正の動きとして、労働安全衛生法が改正され「有害な業務」に従事する労働者の歯科健診が明記されました。今後、全国民の歯科健診を義務付け、健康な歯を長期にわたり維持し、医療費の削減も目指す、国民皆歯科健診の導入も検討されています。歯科治療の需要の将来予想としても、歯の形態を回復させる治療中心型から、う蝕・歯周病になる前に予防していく治療・管理・連携型への移行が望まれています。

 

歯の喪失の二大原因

歯を失う二大原因はむし歯と歯周病です。一般的に歯は奥歯から失われる傾向にあり、比較的若いうちはむし歯で失われる場合が多いのですが、残った歯が少なくなるにつれて歯周病で失われる歯が多くなります。2018年に全国2,345の歯科医院で行われた全国抜歯原因調査結果では、歯が失われる原因で最も多かったのが「歯周病」(37%)で、以下「むし歯」(29%)「破折」(18%)「その他」(8%)「埋伏歯」(5%)「矯正」(2%)の順でした。このうち「破折」の多くは、外傷など物理的に非日常的な大きな力が作用したものではなく、無髄歯(神経をとった歯)と考えられ、原因は「むし歯由来」とみなすことができますので、「むし歯由来」は47%となり、抜歯の最大原因となります。

 

むし歯

大人のむし歯(う蝕)は3種類

①二次う蝕(再発むし歯)
一度治療した歯は、再びむし歯になりやすく、歯の詰め物と歯の間に隙間ができると細菌が侵入して、より歯の奥深くに侵入して進行しやすいです。また、歯の神経を抜いた歯の場合、むし歯の痛みがわからずに気がつくのが遅くなる傾向にあります。定期検診によるサポートが大切です。

②根面う蝕
歯周病により歯の根面が露出した部分に発生するむし歯です。根面は、通常の歯の表面にあるエナメル質とは異なり、より硬度が低く、酸に溶けやすい象牙質に覆われています。30歳代から増える要注意のむし歯で、唾液が減少する高齢者では根面のむし歯が多発することがあります。

③隣接面う蝕
歯と歯の間にできるむし歯で、発見しにくいです。

 

だらだら間食には注意

むし歯の要因となる糖分の摂取量を減らすことに加えて、摂取時間や間食の回数などにも気を付けましょう。甘い食べ物や、糖分を多く含む飲み物を就寝前に摂取すると口内に糖分が残り続けてプラークの増殖を助長してしまいます。また、時間かけてだらだらと間食をすると、酸が作られる時間が増え唾液が糖分を洗い流して酸を中和する時間も短くなり口の中は長時間酸性の状態なります。酸によって歯の表面のカルシウムが溶け、むし歯の原因となります。間食をする時は、時間を決めて楽しむようにしましょう。

 

歯周病

歯周病とは

歯周病は、歯と歯を支える組織におけるさまざまな病態の総称です。歯の周囲の汚れ(プラーク)の中に含まれる細菌の毒素の影響で、歯肉に炎症が起きて、腫れたり、出血しやすくなったり、また歯を支える骨(歯槽骨)が溶けていき、歯がグラグラしたり抜けてしまうこともあります。

次のような症状があったら歯周病の可能性があります。
▪朝起きた時に、口の中がネバネバする
▪歯みがきの時に出血する
▪硬い物が噛みにくい
▪口臭が気になる
▪歯肉が時々腫れる
▪歯肉が下がって歯と歯の間にすきまができてきた
▪歯がグラグラする

 

歯周病が体に及ぼす影響

口の中の細菌による炎症によって出てくる毒性物質が、歯肉の毛細血管から全身へと流れてさまざまな病気を引き起こし、また悪化させる原因となることがわかってきました。エビデンスのあるものを紹介します。

動脈硬化
歯周病菌の刺激により動脈硬化を誘導する物質が出て血管内にプラーク(粥状の脂肪性沈着物)ができ、血液の通り道は細くなります。

心臓病
歯周病菌が引き起こす動脈硬化により、心臓に血液を送る血管が細くなったり(狭心症)詰まったりします(心筋梗塞)。心臓の内膜に歯周病菌がつくと、心内膜炎を起こします。発熱などの症状が出て、心不全を引き起こし、命に関わる事があります。

2型糖尿病
糖尿病の人は歯ぐきの炎症が起こりやすくなり、歯周病が悪化しやすく、歯周病があると糖尿病の血糖コントロールが難しくなることがわかっています。つまり、歯周病と糖尿病は、相互に悪影響を及ぼします。

肺炎
食べ物や異物を誤って気管や肺に飲み込んでしまうことで誤嚥性肺炎が発症します。高齢者や寝たきりの人、脳血管障害の後遺症などで飲み込む力が衰えてしまった人に誤嚥性肺炎が起こりやすくなります。誤嚥性肺炎を起こした人から歯周病菌が多く見つかっているため、歯周病菌は誤嚥性肺炎の重大な原因の一つと考えられています。

低体重出産・早産
妊娠している女性が歯周病に罹患している場合、低体重児および早産の危険度が高くなることが指摘されています。これは口の中の歯周病細菌が血中に入り、胎盤を通して胎児に直接感染するのではないかといわれています。その危険率は実に7倍にものぼるといわれ、タバコやアルコール、高齢出産などよりもはるかに高い数字となります。

 

歯周病とタバコ

タバコを吸うと、歯と歯ぐきにニコチンなどの有害物質が悪影響を与えます。体の抵抗力を弱め、末梢の血管を収縮させ、歯ぐきの血液循環を悪くします。また、タールが歯にこびりつくと、歯磨きでは簡単に取れず、歯垢がつきやすくなります。そのため歯周病になりやすいですし、悪化しやすく、更に治療しても治りにくいことがわかっています。歯周病にかかる危険は1日10本喫煙すると5.4倍に、10年以上吸っていると4.3倍に上昇し、重症化しやすくなるというデータがあります。禁煙また、受動喫煙により歯周病や歯肉のメラニン色素沈着のリスクが高くなることが報告されています。

 

普段からやるべきことは?

デンタルフロスや歯間ブラシの習慣を
歯と歯の間は毛先が届きにくく、歯を磨いても落とせる歯垢は約6割と言われています

定期的な歯科受診と早期治療
日々のセルフケアに加えて、プロによるチェックやケア、つまり年2~3回の定期検診や歯のクリーニング、歯石除去などを行うことがとても大切です。

口の中にあった歯磨き剤を使う
フッ素配合、知覚過敏対策用、歯周病用など、さまざまな種類の歯磨き剤があります。自分の口の中の状態にあわせましょう。かかりつけの歯科にて相談するとよいでしょう。

歯ごたえのある食事やガムを習慣に
よく噛むことは唾液の分泌を促すだけでなく全身にさまざまな効用をもたらします。小魚やセンイ質の多い野菜などをすすんで食べましょう。

禁煙を心がける
喫煙が歯周病、および歯の喪失の要因として重要視されています。

 

最後に・・

健康な歯の維持は人生を健やかに過ごすためにとても重要です。日ごろから正しい歯磨きや、歯周病・むし歯予防を心掛けましょう。また、歯科受診は症状が出た時だけではなく健康な歯を保つために、定期的に受診するようにしましょう。