産業医 コラム

熱中症の正しい予防と対処法 ~今年の夏は全国で気温が高いと予想~

2024年5月15日

地球温暖化や都市のヒートアイランド現象によって、極端に暑い日が増加し、夜間も気温の暑い日が多くなってきています。そのため近年、熱中症が多発しています。消防庁のデータによると、全国で6月から9月の期間に熱中症で救急搬送された方は、2010年以降大きく増加し、特に非常に暑い夏となった2018年は92,710人、次いで2019年が66,869人、2020年が64,869人と近年特に多くなっています。また、厚生労働省の報告では、熱中症による死亡者数は、1993年以前は年平均67人ですが、1994年以降は年平均663人に増加し、近年は人を超える年が続いている状況です。

 

熱中症とは?

熱中症は、体温が上がり体内の水分や塩分のバランスが崩れたり、体温の調節機能が働かなくなったりして起こる様々な症状を起こす病気です。人間の体温を下げる働きは、体表面から空気中への熱放散と、汗などの気化熱によります。外気温が高くなると熱放散が上手くいかなくなり、気化熱のウエイトが大きくなっていきますが、汗をかきすぎて体の水分や塩分が減ってくると、発汗量の減少や血液の水分量の減少からくる体内の熱の運搬能力の低下が起きて、体温が上昇してしまいます。また高齢者では感覚が鈍り気温の上昇に気が付きにくくなることもあります。

 

熱中症の応急処置

熱中症には適切な応急処置が必要です。「自力で水が飲めない」「動けない」「意識がない」など「危ない!!」と思ったら、ためらわずに救急車を呼びましょう。

                        出典:日本気象会 「「熱中症ゼロへ(応急処置のポイント)」

 

熱中症の重症度

Ⅰ度: 現場での応急処置で対応できる軽症

【症状】立ちくらみ(脳への血流が瞬間的に不十分になったことで生じる)筋肉痛、筋肉の硬直(発汗に伴う塩分の不足で生じるこむら返り)、手足のしびれ、気分の不快、大量の発汗  
【応急処置】風通しがよく涼しいところへ移動・足を高くして横にする・冷やした水分と塩分を補給させる。

 

Ⅱ度: 病院への搬送を必要とする中等症

【症状】頭痛、吐き気、嘔吐、倦怠感、虚脱感
【応急処置】衣服を脱がせ、きついベルトやネクタイをゆるめる。 冷やしたタオルや氷嚢を首の両脇、脇の下、太ももの付け根など太い血管のある場所にあてるなど積極的に体を冷やす。

 

Ⅲ度: 入院して集中治療の必要性のある重症

【症状】意識障害、けいれん、手足の運動障害 、高体温(体に触ると熱い。いわゆる熱射病、重度の日射病)
【応急処置】救急車を呼び、最寄りの病院に搬送する

 

熱中症を予防するには

熱中症を予防するには、次の4つのポイントに気をつけましょう。

① 暑さを避ける
外出時にはなるべく日陰を歩く、帽子や日傘を使うなどして暑さを避けましょう。天気予報も注意して、気温の上がる日中の活動は可能な限り控える事をお勧めします。家の中でも、ブラインドやすだれで直射日光を遮り、扇風機やエアコン等は無理に控えず十分活用しましょう。服装についても、襟まわりや袖口があいたデザインなどゆったりしたものや、汗を吸いやすい・通気性の良い素材などを選びましょう。

② こまめな水分補給
暑い日は発汗も増え、体内の水分が失われ易いため、のどが渇く前にこまめに水分を補給しましょう。 ただし、コーヒーや緑茶などのカフェインが多く含まれている飲み物、アルコール類は利尿作用があるので適しません。

③ 急に暑くなる時は特に注意
熱中症は、例年、梅雨明けの7月下旬から8月上旬に多発する傾向があります。これはまだ暑さに体が慣れていないためです。上手に発汗できるようになるには、暑さへの慣れが必要です。 暑い環境での運動や作業を始めてから3~4日経つと、汗をかくための自律神経の反応が速くなって、体温上昇を防ぐのが上手になってきます。さらに、3~4週間経つと、汗に無駄な塩分をださないようになり、熱けいれんや塩分欠乏によるその他の症状が生じるのを防ぎます。このようなことから、梅雨明けや台風直後などの急に暑くなった日、久しぶりに暑い環境で活動した人、涼しい地域から暑い地域へ移動した人などは、暑さに慣れておらず熱中症になりやすいので、より注意が必要になります。

④ 暑さに備えた体作り
日頃からウォーキング等で汗をかく習慣を身につけて徐々に体を暑さに順応させていけば、夏の暑さにも対抗しやすくなり、熱中症にもかかりにくくなります。じっとしていれば汗をかかないような季節からでも、少し早足でウォーキングし、汗をかく機会を増やしていれば、夏の暑さに負けない体をより早く準備できることになります。

 

日ごろの体調管理が重要です

熱中症の発生には、その日の体調が影響します。風邪や下痢、二日酔いなどの脱水状態や食事抜きの状態では、暑いところでの活動は控えましょう。また、活動の後には体温を効果的に下げるように工夫します。 そのためには、十分な水分補給(大量に汗をかいた場合は塩分も補給)と睡眠を取り、涼しい環境でなるべく安静に過ごすことが大切です。睡眠不足や肥満の人、小児や高齢者、内臓の機能が低下している人、自律神経や循環機能に影響を与える薬物を飲んでいる人も、熱中症に陥りやすいので活動強度に注意しましょう。

 

スポーツドリンクの飲みすぎに注意

熱中症にならないためにスポーツドリンクを積極的に取り入れる方がいますが、スポーツドリンクには500mlのペットボトル1本にスティックシュガー7~19本もの糖分が含まれています。砂糖を多く含む飲料を飲みすぎると、急激に血糖値が上がり、「ペットボトル症候群」に陥りやすくなると言われています。ペットボトル症候群によって急激に糖尿病を発症し、急激に悪化するリスクが高まります。血糖値が上がることにより喉が渇きやすくなり、スポーツドリンクを飲みすぎるという悪循環に陥ってしまいます。特に、糖尿病や高血圧で治療中の方は主治医の先生と相談し、適切な補水を心がけましょう。

 

最後に・・

いつでもどこでもだれでも条件次第で熱中症にかかる危険性がありますが、熱中症は正しい予防方法を知り、普段から気を付けることで防ぐことができます。初夏や梅雨明け・夏休み明けなど、体が暑さに慣れていないのに気温が急上昇するときは特に危険です。無理をせず、今から徐々に体を慣らすようにしましょう。