産業医 コラム

口と歯の健康~基本の歯磨きはできていますか?~

2022年5月12日

歯科疾患は有病率が高い

国民生活基礎調査(2016年)では歯科疾患の通院率は他の疾患と比較して高く、男女いずれも第3位です。また、歯科疾患実態調査(2016年)では歯や口の自覚症状を持っている国民は約4割と、歯科疾患は有病率が高いことが分かります。

 

歯の喪失の二大原因

歯を失う二大原因はむし歯と歯周病です。一般的に歯は奥歯から失われる傾向にあり、比較的若いうちはむし歯で失われる場合が多いのですが、残った歯が少なくなるにつれて歯周病で失われる歯が多くなります。2018年に全国2,345の歯科医院で行われた全国抜歯原因調査結果では、歯が失われる原因で最も多かったのが「歯周病」(37%)で、以下「むし歯」(29%)「破折」(18%)「その他」(8%)「埋伏歯」(5%)「矯正」(2%)の順でした。このうち「破折」の多くは、外傷など物理的に非日常的な大きな力が作用したものではなく、無髄歯(神経をとった歯)と考えられ、原因は「むし歯由来」とみなすことができますので、「むし歯由来」は47%となり抜歯の最大原因となります。

 

むし歯

大人のむし歯(う蝕)は3種類

①二次う蝕(再発むし歯)
一度治療した歯は、再びむし歯になりやすく、歯の詰め物と歯の間に隙間ができると細菌が侵入して、より歯の奥深くに侵入して進行しやすいです。また、歯の神経を抜いた歯の場合、むし歯の痛みがわからずに気がつくのが遅くなる傾向にあります。定期検診によるサポートが大切です。
②根面う蝕
歯周病により歯の根面が露出した部分に発生するむし歯です。根面は、通常の歯の表面にあるエナメル質とは異なり、より硬度が低く、酸に溶けやすい象牙質に覆われています。30歳代から増える要注意のむし歯で、唾液が減少する高齢者では根面のむし歯が多発することがあります。
③隣接面う蝕
歯と歯の間にできるむし歯で、発見しにくいです。

 

唾液とむし歯予防

むし歯の発生には唾液の分泌量も関係します。むし歯の原因となるプラークは糖分を餌にして酸を作り出して歯を溶かします。唾液には、プラークが作り出す酸を中和して、溶けた歯を修復する再石灰化の働きがあります。唾液量が減少するとこの働きが弱まり、むし歯になりやすくなります。唾液が減少する原因には、加齢によるもののほか、ストレスも関与します。薬の副作用によることも多く、抗ヒスタミン剤、血圧降下剤、抗うつ剤などには唾液腺の分泌を抑制するものがあります。
唾液の分泌を促すためには、しっかり噛むことが大切です。普段から噛みごたえのある食べ物をよく噛んで食べて口の周りの筋肉を動かし唾液腺を刺激すること、ガムの中でもできれば機能性ガム(キシリトールなどむし歯にならない甘味料や歯周病対策に有効な成分が入ったもの)を噛む習慣もむし歯予防に効果的です。

 

だらだら間食には注意

むし歯の要因となる糖分の摂取量を減らすことに加えて、摂取時間や間食の回数などにも気を付けましょう。甘い食べ物や、糖分を多く含む飲み物を就寝前に摂取すると口内に糖分が残り続けてプラークの増殖を助長してしまいます。また、時間かけてだらだらと間食をすると、酸が作られる時間が増え唾液が糖分を洗い流して酸を中和する時間も短くなり口の中は長時間酸性の状態なります。酸によって歯の表面のカルシウムが溶け、むし歯の原因となります。間食をする時は、時間を決めて楽しむようにしましょう。

 

歯周病

歯周病とは

歯周病は、歯と歯を支える組織におけるさまざまな病態の総称です。歯の周囲の汚れ(プラーク)の中に含まれる細菌の毒素の影響で、歯肉に炎症が起きて、腫れたり、出血しやすくなったり、また歯を支える骨(歯槽骨)が溶けていき、歯がグラグラしたり抜けてしまうこともあります。

                  出典:厚生労働省 e-ヘルスネット「歯周疾患の自覚症状とセルフチェック」

 

歯周病が体に及ぼす影響

口の中の細菌による炎症によって出てくる毒性物質が、歯肉の毛細血管から全身へと流れてさまざまな病気を引き起こし、また悪化させる原因となることがわかってきました。エビデンスのあるものを紹介します。

◆動脈硬化
歯周病菌の刺激により動脈硬化を誘導する物質が出て血管内にプラーク(粥状の脂肪性沈着物)ができ、血液の通り道は細くなります。
◆心臓病
歯周病菌が引き起こす動脈硬化により、心臓に血液を送る血管が細くなったり(狭心症)詰まったりします(心筋梗塞)。心臓の内膜に歯周病菌がつくと、心内膜炎を起こします。発熱などの症状が出て、心不全を引き起こし、命に関わる事があります。
◆2型糖尿病
糖尿病の人は歯ぐきの炎症が起こりやすく歯周病が悪化しやすく、歯周病があると糖尿病の血糖コントロールが難しくなることがわかっています。つまり、歯周病と糖尿病は、相互に悪影響を及ぼします。
◆肺炎
食べ物や異物を誤って気管や肺に飲み込んでしまうことで誤嚥性肺炎が発症します。高齢者や寝たきりの人、脳血管障害の後遺症などで飲み込む力が衰えてしまった人に誤嚥性肺炎が起こりやすくなります。誤嚥性肺炎を起こした人から歯周病菌が多く見つかっているため、歯周病菌は誤嚥性肺炎の重大な原因の一つと考えられています。
◆低体重出産・早産
妊娠している女性が歯周病に罹患している場合、低体重児および早産の危険度が高くなることが指摘されています。これは口の中の歯周病細菌が血中に入り、胎盤を通して胎児に直接感染するのではないかといわれています。その危険率は実に7倍にものぼるといわれ、タバコやアルコール、高齢出産などよりもはるかに高い数字となります。

 

歯周病とタバコ

タバコを吸うと、歯と歯ぐきにニコチンなどの有害物質が悪影響を与えます。体の抵抗力を弱め、末梢の血管を収縮させ、歯ぐきの血液循環を悪くします。また、タールが歯にこびりつくと、歯磨きでは簡単に取れず、歯垢がつきやすくなります。そのため歯周病になりやすいですし、悪化しやすく、更に治療しても治りにくいことがわかっています。歯周病にかかる危険は1日10本喫煙すると5.4倍に、10年以上吸っていると4.3倍に上昇し、重症化しやすくなるというデータがあります。禁煙また、受動喫煙により歯周病や歯肉のメラニン色素沈着のリスクが高くなることが報告されています。

 

普段からやるべきことは?

◆基本の歯磨き
食べたら磨く。特に、就寝前は時間をかけて丁寧に磨きましょう。
◆デンタルフロスや歯間ブラシの習慣を
歯と歯の間の歯垢は歯ブラシだけでは落とせません。
◆定期的な歯科受診と早期治療
日々のセルフケアに加えて、プロによるチェックやケア、つまり年2~3回の定期検診や歯のクリーニング、歯石除去などを行うことがとても大切です。
◆口の中にあった歯磨き剤を使う
フッ素配合、知覚過敏対策用、歯周病用など、さまざまな種類の歯磨き剤があります。自分の口の中の状態にあわせましょう。かかりつけの歯科にて相談するとよいでしょう。
◆歯ごたえのある食事やガムを習慣に
よく噛むことは唾液の分泌を促すだけでなく全身にさまざまな効用をもたらします。小魚やセンイ質の多い野菜などをすすんで食べましょう。
◆禁煙を心がける
喫煙が歯周病、および歯の喪失の要因として重要視されています。

 

8020(ハチ・マル・ニイ・マル)運動

8020運動は、平成元年(1989年)に当時の厚生省と日本歯科医師会が提唱し始めた「80歳になっても自分の歯を20本以上保とう」という歯科口腔保健施策です。歯が20本以上あれば、ほとんどの食事を不自由なく食べることができると言われているので、「一生自分の歯で食べよう」という標語を数値目標化したものといえます。

 

最後に・・

歯の健康は全身の健康にも大きく影響します。年を重ねても自分の歯で食事ができるように、正しい歯磨きや、歯周病・むし歯予防を日々心掛けましょう。また、歯科受診は症状が出た時だけではなく健康な歯を保つために、定期的に受診するようにしましょう。