産業医 コラム

ヘルスリテラシーを高める~健康情報とうまく付き合いましょう~

2022年4月6日

溢れる健康情報

新型コロナウイルスの流行以来、健康情報に触れる機会が格段に増えました。新聞やテレビ、書籍、インターネット、SNSなど様々な場で、日々多くの情報があふれています。専門家と称する人でもそれぞれ意見が違ったり、情報が次々にアップデートされたり、混乱する場面も多いでしょう。ネットなどで噂やデマも含めて大量の情報が氾濫し、現実社会に影響を及ぼす現象を指すインフォデミックという言葉も生まれました。「健診で異常を指摘された」「気になる症状がある」、そんな時にまずはネット検索をする昨今ですが、検索上位に表示される情報が信憑性のあるものかどうかはわかりません。大手検索サイトが信頼できる情報を上位に表示できるようアルゴリズムを改善していますが、完全ではありません。そのような中で、情報を取捨選択して、自分や大切な人の健康について決断する必要があります。

 

ヘルスリテラシーとは

ヘルスリテラシーとは、健康や医療に関する正しい情報を入手し、理解して活用する能力のことを言います。ヘルスリテラシーには3つの段階があります

①機能的ヘルスリテラシー
読み書きの基本的能力をもとにしたもので、健康リスクや保健医療の利用に関する情報を理解できる能力
②伝達的ヘルスリテラシー
情報を自分で探したり、他人に伝達したり、自分で適用しようとする能力
③批判的ヘルスリテラシー
得られた情報をうのみにせず、批判的に吟味し、主体的に活用しようとする能力

 

仕事や生活への影響は?

ヘルスリテラシーが高いと適切な健康行動を選択でき、健康の維持や病気の予防につながることが期待されています。2018年に日本医療政策機構の行なった「働く女性の健康増進に関する調査」では、

・女性に関するヘルスリテラシーの高さが、仕事のパフォーマンスの高さに関連
・女性に関するヘルスリテラシーの高さが、望んだ時期に妊娠することや不妊治療の機会を失することがなかったこと
 に関連
・女性に関するヘルスリテラシーの高い人は、女性特有の症状があった時に対処できる割合が高い

という結果が出ています。これは女性の健康に関する調査ですが、性別問わず同じことが言えると予想されます。しかし、残念なことに、国際比較では現状、日本人のヘルスリテラシーは他国と比べて低いと報告されています。

 

ヘルスリテラシーが低いと…

ヘルスリテラシーが低いとどのような影響があるでしょうか。

①病気、治療、薬の誤った情報に振り回される
②病気の小さな自覚症状を見逃してしまう
③慢性の病気を悪化させてしまう
④医師や看護師へ、症状について正確に伝えられない
⑤健康診断やワクチンを適切に活用できない

⑤のワクチンについてですが、HPVワクチンという子宮頸がん等を予防できる有効なワクチンがあります。世界では接種対象者の多くが接種をしていますが、日本だけ著しく接種率が低い状況が続いています。理由として副反応の報道がきっかけとなり厚生労働省が積極的な勧奨を差し控えた影響が大きいですが、副反応についてセンセーショナルに扱ったマスコミや政治家、個人のヘルスリテラシーの低さも根源にあります。研究が進み、副反応はワクチンの副作用が原因でないことがわかっており、2022年4月から他の定期接種と同様に個別の勧奨を再開することになりました。ワクチンは臨床試験を行い安全性と効果が確認できたものが使用されることになっています。日本でも海外でも、ワクチン接種後に新たに起こった症状を報告するシステムがあり、ワクチンを接種したことで身体に悪い作用が起こっていないか常に検討されています。ワクチンは個別の効果に加え、接種した人が増えることによる、集団免疫の効果もあるので、必要なワクチンを対象者が受けることが大事です。

 

健康情報の見方

健康情報を見るときに気にしてほしいのは、情報の根拠です。様々な健康情報に、根拠とされる情報があります。医療ではよく「エビデンス」と言われ、根拠のあるデータに基づいて、治療のガイドラインや標準治療が選定されています。また、多くの研究データが積み重なり、現在の医療が行われています。こういった研究成果は、医学雑誌に掲載され、世界中の研究者が確認し、実際の医療に結び付けられていきます。ですが実際のところ、日頃よく耳にして、多くの人が参考にしている健康情報が、この「エビデンス」外の知人や家族の体験談、というアンケート結果もあります。また医療資格を持っていても、「自分の意見」を基に独自の健康法を指南する人もいます。ある人が良いと思った健康法が、自分に当てはまるとは限りません。場合によっては、お金の無駄遣いになってしまい、健康を害する可能性もあります。根拠に基づかない健康情報をうのみにして、必要な治療を受ける機会を失うこともありますので、注意しましょう。

 

薬や健康食品は安全?

「薬はできるだけ飲みたくない」という意見をよく聞きますが、薬を使用するメリットがデメリットを上回る場合に、薬を使用する必要があります。薬は副作用が心配という声も聞きますが、薬のことを知り、注意点を知ったうえで用法用量を守って使うようにしましょう。処方する医師や、薬剤師に疑問に思ったことはなんでも確認してみましょう。病院ではとっさに質問ができないという意見もよく聞きます。聞きたいことはメモしておく、診察には誰かに付き添ってもらう、などもお勧めです。
健康食品については、様々なものが販売されており、中には薬機法に違反する表示がされたものもあります。医薬品ではないものに、医薬品的な効果をうたってはいけません。そんなに効果があるならば、適切な臨床試験を経て医薬品になっているはずです。また、食品だから安全、天然成分だから安心、とも限りません。アレルギー症状を引き起こすなど、医薬品とよからぬ相互作用を起こすこともあります。「〇〇を食べれば痩せる!」と言ったような特効薬的なものが好まれがちですが、現状、食べるものについては、3食バランスよく、がベストと言えます。

 

最後に・・

新型コロナウイルスの影響もあり、健康情報について調べる機会が増えたのではないでしょうか。情報過多の今こそ、ヘルスリテラシーを高め健康の維持や病気の予防に努めましょう。