産業医 コラム

女性特有の健康問題 ~月経にまつわる不調と向き合うために~

2021年11月5日

近年では働く女性の割合が上昇しており、共働きの家庭も増えています。経済産業省は「働く女性の健康推進に関する実態調査」を実施したところ、女性従業員の約5割が女性特有の健康問題により職場で困った経験があると回答しました。そのうちの多くが月経痛や月経前症候群によるものでした。働きやすい環境作りのためにも、「女性の健康問題」について理解を深めましょう。

 

女性のライフステージと病気

女性の体は、生涯にわたって女性ホルモンの分泌の変化による大きな影響を受けています。思春期、性成熟期、更年期、老年期の各ステージによってかかりやすい女性特有の病気があります。女性ホルモンの分泌は、成長とともに増えて20歳代後半でピークとなり、40歳代になると減少し始め、更年期に急激に減少します。

 

月経周期による体調不良

卵巣から分泌される女性ホルモンには、エストロゲンとプロゲステロンがあります。エストロゲンは、子宮内膜や乳腺を発達させて妊娠の準備をするホルモンです。他にも肌のつややハリを保つ、骨密度を維持する働きをする、コレステロールのバランスを整える、血管をしなやかに保つ、自律神経のバランスを整えて気持ちを安定させる、などうれしい作用があり、美人ホルモンとか、若返りホルモンなどと言われる所以です。プロゲステロンは、妊娠の成立や維持をさせるホルモンです。体温を上げる、むくみや食欲増加、眠くなる、イライラなどが起こりやすくなります。
この二つのホルモンが増減を繰り返すことによって月経周期が生まれています。月経の始まった日から次の月経が始まる前日までを1周期と呼びます。この期間が28日なら28日周期、30日なら30日周期といい、25〜38日の間の周期であれば正常です。自分の月経周期から14をひいた数字の周辺に排卵日があります。女性の体は排卵日を境に心も体も変化するということを知りましょう。

 

月経困難症とは

月経期間中に、月経にともなって起こる病的な症状を月経困難症といいます。
【月経困難症の主な症状】
下腹部痛/腹痛/腹部膨満感/嘔気/頭痛
疲労や脱力感/食欲不振/いらいら/下痢/憂うつ感 等

 

月経困難症の分類

月経困難症は器質的疾患(※)の有無により、以下のように分類されます。
(※)身体の組織である筋肉群や骨格などが既に変形あるいは破壊されてしまっている状態、
   または著しい内臓の機能低下

■原因となる疾患がない(機能性月経困難症)
月経血を排出するために子宮の収縮を促す物質(プロスタグランジン)の過剰分泌が原因とされています。子宮や卵巣が未成熟であること、ストレスや冷えも原因であると考えられます。プロスタグランジン合成を阻害する鎮痛薬が一般的に用いられています。プロスタグランジンは月経の開始前から産生され始めるため、痛みがピークになる前に服用を始めるほうが有効なことがあります。漢方薬も月経痛に有効で、体の冷えや骨盤内の血流改善、イライラなどの精神症状にも効き目があります。

■原因となる疾患がある(器質性月経困難症)
子宮内膜症や子宮腺筋症、子宮筋腫などの病気や、炎症などが原因で起こるほかの臓器の癒着などが痛みを引き起こしているケースもあります。このような場合は、原因となっている病気の治療が必要です。

 

月経困難症の治療

薬物治療では、痛みの原因であるプロスタグランジン産生を抑制する鎮痛剤を使用して、痛みを緩和する方法が広く用いられています。また、低用量ピルやLEP製剤を使用して、排卵をとめて子宮内膜の増殖を抑制することで症状を軽減する方法もあります。原因となる疾患がある場合には、それに対応した治療を受けることが大変重要です。

 

PMS(月経前症候群)とは?

PMS(Premenstrual Syndrome:月経前症候群)とは、月経前、3日~10日の間続く、精神的あるいは身体的症状で、月経開始とともに軽快ないし消失するものをいいます。
【PMSの主な症状】
・精神神経症状 : 情緒不安定/イライラ/抑うつ/不安/眠気/集中力の低下 等
・自律神経症状 : のぼせ/食欲不振・過食/めまい/倦怠感 等
・身体症状 : 腹痛/頭痛/腰痛/むくみ/お腹の張り/乳房の張り 等

 

PMS(月経前症候群)の治療

まず、出現してきた症状を記録し、月経周期との関連を確認しながら、自らの病状について理解することが大切です。症状とうまく付き合うために、自分のリズムを知り、自分にあったセルフケアを行うことができるよう心がけましょう。薬による治療としては、排卵抑制療法、対症療法、漢方薬など、症状や体質などに合わせた方法があります。

【排卵抑制療法】
排卵が起こり女性ホルモンの大きな変動があることがそもそもの原因なので、排卵を止め女性ホルモンの変動をなくすことで症状が軽快します。低用量経口避妊薬(OC、低用量ピル)や低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬(LEP)は少ないホルモン量で排卵を止めます。これらの薬は副作用が少なく、服用している期間だけ一時的に排卵を止めるものなので、服用を止めるとすぐに排卵が回復します。その後の妊娠には影響を与えません。

【対症療法】
痛みに対しては鎮痛剤、むくみなどの水分貯留症状に対しては利尿剤や抗アルドステロン療法(尿量を増やす治療法)、精神神経症状や自律神経症状に対しては精神安定剤や選択的セロトニン再取り込み阻害薬物療法(脳内の活性物質セロトニンを維持する治療法)を使用することもあります。

【漢方薬】
個人の症状や体質に合わせて、漢方薬はよく使われます。イライラや抑うつ感が強い場合には加味逍遥散、抑肝散、半夏厚朴湯など気の動きを改善するとされるもの、腹痛や腰痛、便秘、頭痛、肩こりなどの症状が強い場合には桂枝茯苓丸、桃核承気湯など血行をよくするとされるもの、むくみや吐き気、頭痛、めまいを感じやすい場合には当帰芍薬散、五苓散などが適しています。保険診療で処方が可能ですので、医師に相談するとよいと思います。

 

月経による不調と向き合うためのポイント

基礎体温をつける

基礎体温をつけて体調管理に生かしましょう。コロナ禍になって体温を測定する習慣がついた方も多いと思いますが、月経周期をコントロールするには婦人体温計で基礎体温を測り記録する習慣をぜひお勧めします。基礎体温は、朝目覚めた直後、体を動かす前の安静時に舌下で測定します。基礎体温をつけて排卵時期を知ることは、自分の状態を把握できるだけでなく、医療機関受診への相談時にも記録は役立つことがあります。

 

食生活を見直して貧血を予防

貧血とは、血液中の赤血球に含まれるヘモグロビン濃度が低下した状態で、女性では12g/dl未満をいいます。月経がある女性は貧血になりやすく、全身に酸素を運搬する能力が低下してしまうので、疲れやすい、頭痛、息切れ、めまいの他に、爪が薄くもろくなる、氷などをバリバリ食べたくなる(異食症という)といった症状が出ます。女性の約65%が鉄欠乏性貧血あるいはその予備軍のかくれ貧血であるという統計がありますが、下表のように、日本人女性は鉄の推奨量の6割程度しか鉄分を摂取できていません。


日本人成人(20〜49歳)の1日の食事から摂取する鉄の推奨量は、月経のある女性で10.5mg、月経のない女性では6.5mg、男性では7.5mgです。鉄分を多く含むレバーや赤身の魚などを積極的に摂取し、偏食や無理なダイエットをせずバランスの良い食事をとるようにしましょう。非ヘム鉄は吸収率が悪いので、ビタミンCとともに摂取するとよいです。そして実は、ヘモグロビンは鉄だけでなく、たんぱく質と結合してできています。米飯では必須アミノ酸(たんぱく質)が揃いますが、小麦では必須アミノ酸が足りません。 パン好き、麺好きな女性は、鉄分とともにたんぱく質も意識してとりましょう。サプリメントも上手に取り入れるとよいと思います。

 

運動する習慣を作りましょう

適度な運動がエストロゲンの分泌に影響することが証明されています。運動により筋肉量を増やすことは、女性に多い冷えの対策にもなります。アスリートのような過剰な運動はエストロゲンの分泌不全をきたすことが多いようです。過剰ではない適度な運動は女性ホルモンのバランスを整えてくれると同時にストレス解消にもつながります。

 

積極的に婦人科を受診する

月経に関する異常症状やPMSがある場合でも、「何もしていない」という女性が最も多いという調査結果が出ています。治療するべき病気が隠れていないか、痛みや不調を我慢しないためにも、積極的に婦人科の受診をして健やかに過ごしましょう。 

 

最後に・・

女性特有の健康問題について理解を深めることは本人・周囲にとっても大切なことです。症状がひどくなってきた、日常生活に支障がでてきたなどがあれば、早めに婦人科を受診しましょう。