カウンセラー コラム

働き方再考  ~コロナを通して見えた持続可能なキャリアとは~

2022年5月16日

新型コロナウィルスにより、この2年余りで私たちの日常は一変しました。
働き方や生活スタイルの変更を余儀なくされ、これまで当たり前と思っていたことが当たり前ではなかったことを知りました。
そんな中、生きていく上で「本当に大切なことはなにか」、「自分にとって幸せとはなにか」、「限られた時間をどのように過ごせばいいのか」など、価値観について改めて考えたという方も多いかもしれません。
ある調査(※1)によると、コロナを通して「仕事への向き合い方」や「人生における仕事の位置づけ」など、働き方にも変化が表れていることがわかりました。

 

■変化した「働く意義」

調査結果では
・コロナ禍において、44.4%の方が仕事に対する価値観に変化があったと回答し、そのうちの半数以上がポジティブな変化だと評価しており、コロナ禍がもたらしたものが必ずしもネガティブな面だけではないことがわかりました。
・コロナ禍での働き方の変化により、以前よりも「プライベートの活動」、「暮らし」、「家族」といった生活に密接なものを重視するようになった傾向がみられました。
・働く上での幸福(Well-being)は、「給与」、「労働時間」、「休み」といった待遇面・労働環境に関する項目が上位を占める中で、「自身の役割を理解し、仕事にやりがいをもっている」という内面的な要素も多く選ばれています

 

※1:SOMPOホールディングス株式会社「仕事に対する価値観の変容に関する意識調査」2021年12月

 

これらの調査結果から、コロナの影響で、仕事とプライベートを統合的に考え、両方を充実させていくという「ワークライフインテグレーション」の考え方が一層高まったと言えます。
そんな中、注目されているのが「持続可能なキャリア論」(Van der Heijden & De Vos, 2015)です。

 

■持続可能なキャリアとは

持続可能なキャリア論では、個人がキャリアを通じて幸福、健康、組織貢献が同時に達成される状態を良いキャリアとし、そのために個人と組織の良い関係を重視します。
個人が自律的にキャリアを築くためには、職務遂行能力、人的ネットワーク、適応能力、能動性などの「キャリア資源」の獲得、発揮、維持が必要です。
一方で、キャリア形成は具体的な仕事や能力開発の機会との出会いの中で継続的、長期的に行われるため、組織がどのように機能し機会を提供していけるか、ということも重要です。
持続可能なキャリアとは、組織と個人が協力して個人のキャリアを考える関係を築いていきましょうという考え方なのです。
これまで日本に多いと言われてきた、上司の指示に従い数字を追うという組織従属型(トップダウン型)の働き方では、個人が自ら「したいこと」を見出すのが難しくなる可能性があります。かといって個人の自己主導や自己責任を強調しすぎると、個人と組織の分断を生みかねません。

では、現実的かつ具体的に、私たちはどのように持続可能なキャリアを築いていけばいいのでしょうか。
持続可能なキャリア論では、個人のキャリア資源を身につけるだけでなく、それらを活かして目の前の組織に貢献するためのアウトプットを出すことの重要性を示しています。
そうすることが自分がしたいことを組織に伝えやすくなり、組織は個人に次の仕事や機会を与えていくという好循環に繋がりやすくなるのです。

 

■「結果」ではなく「関係性」から始める

次に、仕事経験を活かし、キャリア資源を獲得、発揮、維持し、アウトプットを出していくための方法を考えてみましょう。
一例として、マサチューセッツ工科大学のダニエル・キム教授が提唱した「組織の成功循環モデル」をご紹介します。

 

ダニエル・キム教授によると、初めに「結果の質」を高めようとすると、失敗のサイクルに入ってしまいます。
「無理に結果をあげようと人への強制、管理に走る」→「メンバーにストレスがかかり、人間関係が悪化する」→「結果以外のことに無関心になる」→「短期的に結果を出すことに走り、メンバー感の協働が減る」→「パフォーマンスが落ち、さらに結果を出す圧力が強まる」といった具合です。

一方で、「関係の質」を高めると、成果に結びつきやすくなります。
「対話から始め、信頼関係を築く」→「前向きな気持ちになり、いいアイデアが生まれる」→「一人ひとりが自律的に行動し、問題が起きたら助け合う」→「パフォーマンスが高まり、成果が出る」→「組織への帰属意識が強まり、結束が深まる」

サイクルの流れは同じですが、起点が違うのです。
では、それぞれの質を高めるにはどうしたらよいのでしょうか。

 

①関係の質を高める

関係の質を高めるには、対話が有効と言われています。対話は会話や議論とは違います。

多様な人たちが集まれば、意見が異なるのは当然です。お互いの意見を戦わせる前に、「なぜそう考えるのか」を理解し合い、異なる意見の背景を共有することで建設的な第三案が生まれる、というのが対話の思想です。
そして、対話をするためには心理的安全性のある環境が大切です。
参考:カウンセラーコラム「心理的安全性」~あなたのチームは安全ですか?~

 

②思考の質を高める

次に、思考の質を高めるにはどうしたらよいのでしょうか。
多様なメンバーがそれぞれ前向きに考えられる環境を作るために、
・上司やリーダーは、その仕事の「社会における意味(チームの存在意義)」を言語化して共有し、希望につなげることが大切と言われています。と言っても、押し売りにならないよう、一人ひとりが腹落ちできるように「個人における意味(メンバー個人の働く意義)」に結びつけていく必要があります。それぞれのメンバーが仕事に対してどのような価値観を持っているのかを理解し、どういった強みが活かせるかを伝えることも有効でしょう。
・メンバー自身は自分の内面に目を向け、どのように仕事に取り組めば貢献感や成長感など喜びを感じられるか、意識するようにしましょう。

 

③行動の質を高める

行動に繋がる動機付けには、外発的なもの(給与、地位、評価など)と内発的なもの(充実感、達成感、自己成長感など)があることは有名ですが、効果の持続性については内発的動機付けの方が有効と言われています。 モチベーション理論の大家エドワード・L. デシ(Edward L. Deci)は内発的動機の根源には「自律性」「有能感」「関係性」の3つがあると唱えました

自律性  自分のすることは自分で決めて動きたい。
 自由を得ることで人間として尊重されていると感じ、やる気や働きがいを生み出します。
有能感 自分で自分の仕事を「やりとげることができる」という感覚です。
 自分がすることを「自己決定」できたとしても、仕事のレベルが、本人の力量をはるかに
 超えていては、「有能感」を持つことができません。
 「最適な難易度の挑戦」がポイントです。
関係性 「他人とよい関係を築きたい」「他者に貢献したい」という欲求のことです。
 上記の自律性(自分のことは自分で決めたい)と相反するように見えますが、
 自律性は利己的とは異なり、成熟した人間であれば両立が可能と言われています。

個人が「自律性」を持ち、一人の人間として成長し、「有能感」をもてるように支え合い、互いを尊重する「関係性」が組織風土として根付けば、「明日もがんばろう」と思えるモチベーションの高いメンバーが増え、行動の質が高まるでしょう。
いかがでしょうか。コロナにより私たちは悩み、考え、より幸せになりたいと進みだしました。
人生の多くを費やす「働く」という時間を、みんなで力を合わせて、より楽しく幸せな時間にしていきませんか。

 

【参考文献】
「だから僕たちは、組織を変えていける」~やる気に満ちた「やさしいチーム」のつくりかた/斉藤徹/クロスメディア・パブリッシング 2021年
「LIFE SHIFT」~100年時代の人生戦略/リンダ・グラットン、アンドリュー・スコット/東洋経済 2016年
「キャリア自律の意味すること」/RMS Message Vol.64/2021年11月
「わかり合えないのは『議論』をするから・・・『対話』によるチーム運営を忘れてませんか」/Yahooニュース/2020年10月